DISEASE

脊髄損傷

概要

「脊髄損傷」とは、中枢神経である脊髄が傷つき、運動や感覚が障害される病気・障害です。
脊髄は脳とつながる神経の束(たば)であり、脊椎(背骨)のなかに存在しています。脳からの命令を身体の各部位に伝えたり、逆に身体の情報を脳にフィードバックする重要な神経のパイプです。

脊髄はたくさんの神経が集まって一つとなり、上下に伸びる構造をとります。脊髄の役割は位置(高さ)で変わります。そのため、脊髄を理解するうえでは、位置(高さ)と働きの違いを理解しておかなければいけません。

脊髄の名称は頭部から下方に向かって、「頚髄(けいずい)」、「胸髄(きょうずい)」、「腰髄(ようずい)」、「仙髄(せんずい)」と呼ばれています。

脊髄の機能は、身体の部位(高さ)に対応して異なるのが特性です。たとえば、脊髄の中でも首の高さに位置する部分は上半身の運動・感覚を担い、脊髄の下方は下半身の働きを支配しています。

ちなみに、人間の身体のうち中枢神経と呼ばれるものには「脳」と「脊髄」の2つがあり、一度傷を受けてしまうと再生しません。そのため、脊髄損傷では半永久的な後遺症が残ります。

脊髄は背骨によって強固に守られているため、容易に損傷を受けるわけではありません。ただし、脊髄そのものは非常にデリケートです。骨の変形や外部から軽い圧迫でも直接の影響があれば、それに応じた症状が出現します。

原因

脊髄損傷の原因は、脊髄が直接の損傷を受けることが起因となります。たとえば、転倒や衝突、高所からの落下などです。背骨に強い外力(衝撃)が加わった結果、骨折や脱臼などで脊髄がダメージを受けた場合、脊髄が損傷されます。多くは交通事故や転倒事故、スポーツなどがきっかけです。

また、靭帯の骨化によるケースもあります。靭帯の骨化とは、背骨をつなぐ靭帯にカルシウムが沈着して硬くなる病態です。骨化した靭帯は徐々に厚みを増していきます。これにより脊髄損傷の通り道が狭くなり、脊髄が圧迫されるのが骨化という現象です。

近年、脊髄損傷の発症年齢は高齢化しているとされています(※)。高齢者の転倒は骨折の原因として知られていますが、脊髄損傷の起因としても注意が必要です。

脊髄損傷を部位別に見てみると、頚髄損傷がもっとも多く63%であり、次いで胸・腰髄損傷は37%と報告されています(※)。頚髄損傷は運動・感覚の障害が広い部位に及ぶ特徴があり、とくに呼吸器や排尿・排便の障害などを起こすリスクが高くなります。

出典:公益社団法人 日本理学療法士協会「脊髄損傷 理学療法ガイドライン」

https://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/13_cord_injury.pdf

症状

脊髄損傷は脊髄の損傷具合によって「完全損傷」と「不完全損傷」の2つに分けられます。いずれの場合でも運動の障害は必至です。
一方、感覚機能は保たれる場合もあります。両者の割合は完全麻痺が40.7%に対し、不全麻痺は59.3%であり、やや不完全損傷の割合が多い傾向にあります(※)。

以下、「完全損傷」と「不完全損傷」の症状をそれぞれ見ていきましょう。

「完全損傷」とは、脊髄の横断的な損傷です。脳との連携が遮断され、運動神経が機能しなくなって麻痺が生じます。さらに、身体の情報を脳フィードバックする働きも破壊されるため、感覚も機能しません。
身体を自由に動かすことが困難になり、身体に触れられても分からない状態になります。ただし、「まったくの無感」というわけではありません。痛みやしびれといった感覚を生じる場合があり、こうした異常感覚が日常生活を阻害します。

「不完全損傷」とは、脊髄が部分的に損傷を受けるタイプです。損傷の度合いによって症状には幅があり、感覚のみ保たれている場合、あるいは運動が一部のみ障害されるケースもあります。

一般に、上位の脊髄が損傷を受けるほど症状は重度になります。つまり、仙髄損傷より腰髄損傷、胸髄損傷より頚髄損傷の方が障害は重度です。

とくに頚髄損傷と胸髄損傷では、自律神経や呼吸器の障害を生じます。自律神経の障害が生じた場合、体温や血圧の調節がうまく機能しません。さらに呼吸器の障害が重度の場合は呼吸器の使用が必須となります。

上記のとおり、脊髄損傷では運動・感覚神経の損傷による症状がメインとなりますが、二次的に生じる以下の合併症にも注意が必要です。

  • 循環器障害:起立性低血圧、エコノミー・クラス症候群(深部静脈血栓症)、褥瘡(床ずれ)など
  • 消化器障害:胃・十二指腸潰瘍、麻痺性イレウス(腸閉塞)
  • 泌尿器障害:尿路感染症、敗血症(重度の全身感染症)

出典:公益社団法人 日本理学療法士協会「脊髄損傷 理学療法ガイドライン」p466

https://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/13_cord_injury.pdf

検査/治療

検査

脊髄損傷の検査では、医師が直接する診察と画像診断がメインです。診察では感覚や反射、筋力の状態を調べます。神経の働きを大まかに把握するのが診察の目的です。
感覚は刷毛やブラシで皮膚を撫でる触覚検査、反射はゴムハンマーで筋肉の腱を軽く叩く腱反射、筋力検査では握力の状態などを調べます。

より正確な診断のためには画像検査が必須です。 脊髄損傷ではエックス線とMRIを用いた画像検査が実施されます。
エックス線検査は、脊髄周辺の骨の変化、脊髄の通り道である管の状況を調べるのに有効です。また、MRIは脊髄の損傷具合・圧迫の程度などが分かります。

治療

脊髄損傷の治療は、主に以下の項目に分けられます。

  • 薬物療法
  • 装具・ギプス
  • リハビリテーション
  • 手術

「薬物療法」は、痛みや筋肉の異常な緊張を和らげるのが目的です。消炎鎮痛薬や筋弛緩薬、ステロイドなどが使用されます。

「装具・ギプス」の使用目的は、損傷部位の安静、動作の安定化を図ることです。ただし、軽傷を除いては装具・ギプス単独では十分な効果が得られません。そのため装具類だけの治療は稀で、多くの場合は他の治療法と併用します。

「リハビリテーション」では、身体トレーニングを中心として運動・感覚機能の回復を図ります。また、後遺症が残った場合の動作練習や車椅子操作の訓練なども実施されます。

上記の治療法はいずれも保存療法です。これらの治療で十分な成果が得られない場合、「手術」が選択されるケースもあります。
ただし手術の目的は、脊髄損傷そのものの治癒を目指すのではありません。背骨を部分的に切除し、脊髄の圧迫を取り除いたり、プレートを入れて背骨の安定化を図るのが目的です。

手術は、合併症をともなう危険性もあるため、実施する価値や予後を見極めて慎重に検討されます。

当施設と他施設のリハビリを比較

病院でのリハビリ 通所リハビリ・デイサービス・訪問でのリハビリ 潜在能力を最大化する
当施設のリハビリ
目標
  • 早く家に帰れるようにする
  • 麻痺していない部分を使って生活ができるようにする
  • 基本的に歩行訓練はしない
  • 身体の動きを維持できるようにする
  • これ以上悪くならないようにする
  • 麻痺している部分を使えるようにする
  • 特殊な歩行装置やロボットスーツHAL®を使い、効率的かつ安全な歩行ができるようにする
効果
  • 車椅子での生活ができるようになる
  • 維持して、身体を悪くしないようにする
  • 麻痺している筋肉の動きが活性化する
  • 支えやロボットスーツHAL®があれば、歩けるようになる*1
時間
  • 退院後は1回20分~40分程度
  • そもそも外来リハビリを実施していない病院が多くリハビリをする場所が少ない
  • 1回20分~40分程度
  • 集団での体操・レクリエーション
  • 筋トレマシーンをつかった簡単な運動
  • 最大120分、週2回以上
  • マンツーマンで麻痺を改善するための専用プログラムを提供
  • 麻痺を改善するための自主トレを提供
担当者
  • 日によって変わることがある
  • 担当者を選べない(新人になることもある)
  • 知識や技術がバラバラ
  • 経験豊富なセラピストが少ない。そもそも、専門知識を持ったスタッフがいないことが多い
  • 麻痺の改善に向けたリハビリ自体を考えていないことが多い
  • 経験豊富なセラピスト
  • 中枢神経疾患が専門
  • 知識・技術能力が高い

*1 リハビリの効果には個人差があります。

一般的な病院でのリハビリは、入院期間を短くするために自宅に帰れる能力の獲得を最優先しています。そのため、麻痺への十分なアプローチができないのが現状です。

介護保険でのリハビリ(通所・訪問・デイサービス)は、身体の動きを悪くしないように手足のストレッチをするのが中心です。1回あたりの時間は大体20分で専門のセラピストが居ないデイサービスも多々あります。そのため、麻痺側の改善に向けたアプローチをしていないリハビリ施設がほとんどです。また、集団でのリハビリやレクリエーションなどがあり、個人個人に必要なプログラムを提供することが難しいのです。

当施設のリハビリは、脳の特殊能力である可塑性を最大限に引き出すリハビリを行います。(脳が使い方を思い出し、学習をさせます)麻痺を改善するためのリハビリを集中的に行います。これにより、麻痺の改善を諦めていた方々でも改善していく可能性があります。通常のリハビリに加え、特殊テクニック・ロボットスーツHAL®を使って、眠っている潜在能力を引き出し、リハビリの効果を最大化していきます。