DISEASE

脳性麻痺

概要

「脳性麻痺」とは、出産前後の段階で脳が損傷を受け、それにより心身に支障をきたす症候群です。脳細胞が傷つくことで心身のさまざまな後遺症が永続的に残るため、「病気」ではなく「障害」とする捉え方もあります。

人間の脳は心身のコントロールをする中枢器官でありながら、脳の細胞はとてもデリケートです。一度傷つくと今の医学では完治が望めません。
そのため、脳性麻痺ではさまざまな症状が後遺症として残ります。たとえば運動や感覚の障害。記憶や思考といった発達の遅れや、停滞などです。

ただし、状態(後遺症)は一人ひとり異なります。身体の障害は重くても話が上手な子どももいれば、運動は好きだがコミュニケーションが苦手なケースもあります。大切なのは個々の状態と特性に寄り添うことです。

脳性麻痺が障害だからと放置したり、治療を放置すれば発育不全がさらに深刻化する可能性もあります。
脳性麻痺は完治が困難ですが、リハビリテーションを中心とした治療により療育環境を整え、さらなる障害の予防や発育の促進に取り組むことが大切です。

原因

脳性麻痺の原因は、脳の損傷です。定義では「受胎(妊娠)から生後4週間以内の新生児の段階で脳細胞が傷ついてしまうこと」とされています(※1)。

定義のとおり、脳性麻痺の直接の原因となるのは脳損傷ですが、脳損傷のきっかけとなる要因はさまざまです。
脳性麻痺の起因として、以下の項目が挙げられます(※2)。

  • 脳形成不全(脳の奇形や発育障害)
  • 胎児感染症
  • 双胎間輸血症候群(胎児期循環障害)
  • 脳血行障害
  • 虚血性低酸素性脳症
  • 新生児期呼吸循環障害
  • 高ビリルビン血症 (核黄疸)
  • 脳炎
  • 頭部外傷

1 出典:日本リハビリテーション医学会 監修「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版」p15

http://www.jarm.or.jp/wp-cntpnl/wp-content/uploads/2017/05/member_publication_isbn9784307750387.pdf

2 出典:厚生労働省「医療-障害のある子どもの成長と発達の特徴」p36

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000123634.pdf”

症状

脳性麻痺の症状にはタイプがあり、大きく以下の4タイプに分類されています。

  • けい直型
  • アテトーゼ型
  • 運動失調型
  • 混合型

「けい直型」とは、身体のこわばりを特徴とするタイプです。筋肉が常に収縮したように固く、手足や体幹の動きが滑らかではありません。そのため運動がぎこちないのが特徴です。関節が脱臼したり固くなったり、あるいは手足の変形がみられる場合もあります。

「アテトーゼ型」では、過剰な運動・余分な動作が見られます。いわゆる「不随意運動(ふずいいうんどう)」が目立つタイプです。いざ身体を動かそうとすると、過剰に手足が動いたり、体幹が左右にブレたりといった余計な動作が無意識に生じます。
たとえば、何か物を取ろうとするとき、まるで踊ったり暴れたりするように腕が上下左右に大きく動いてしまうのです。けい直型とは真逆の症状ですが、やはり運動の滑らかさが阻害されます。

「運動失調型」は、バランスの悪さが特徴です。身体を動かすと体幹・手足が震えて、立ち座りや歩くことが常に不安定となります。

「混合型」とは、「けい直型」「アテトーゼ型」「運動失調型」のタイプが2つ以上重複している脳性麻痺です。

上記に示すとおり、症状はタイプによって異なりますが、「けい直型」と「アテトーゼ型」はとくに頻度が高いものとして知られています。また、両者の線引きが難しい混在型も少なくありません。

この他、視覚障害や飲み込みの障害、情緒不安定(感情の障害)、知能・思考に支障をきたすケースもあります。

治療

脳性麻痺は、病気そのものの完治が困難です。治療の目的は症状の改善や二次障害の予防が目的となります。
二次障害とは、過剰に高まった筋肉の緊張による関節の変形・脱臼、姿勢不良による腰痛、運動量低下による肥満などです。

脳性麻痺の治療は状態に応じて、以下の方法が取捨選択されます。

  • 薬物療法
  • 装具・補助具・ギプス
  • 手術
  • リハビリテーション

「薬物療法」としては、筋弛緩薬、ボツリヌス菌注射薬、バクロフェン注射薬などが用いられます。これらの薬剤は、主に筋肉を緩めるのが目的です。用いられる薬剤は中枢や抹消の神経に作用し、過剰に高まった筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。
脳性麻痺では、運動障害や姿勢維持の困難、関節の変形、痛みなどが生活上で支障をきたすケースが少なくありません。薬剤の作用により過剰な緊張を解きほぐすことで、動作の改善や介護負担の軽減を図ります。

「装具・補助具・ギプス」の使用も治療の一環となります。補装具の使用目的は主に身体機能の改善です。障害そのものの治癒は難しくても、補装具を上手く活用することで日常生活に必要な動作が大きく改善されます。
さらに体姿勢の矯正、関節の変形予防も補装具の役割です。不良姿勢の放置は、腕や足、脊柱の変形などの二次障害につながります。器具を活用することで、正しい姿勢を保持し、将来的な障害を予防することが重要です。

障害の程度が重度の場合は、「手術」を行う場合もあります。ただし、手術には細心の注意が必要であり、治療の第一選択ではありません。
薬物療法や補装具、リハビリテーションでの対応が難しいケースに対して手術が実施されます。
手術の対象となるのは二次障害です。筋肉の緊張が高く、手足や体幹に変形が生じている(生じる可能性が高い)場合が手術の適応となります。手術は主として整形外科が担当領域です。障害の程度によって神経の切断、筋肉の延長、骨切りなどが行われます。

また、脳性麻痺の治療ではリハビリテーションが重要な役割を担います。「リハビリテーション」は以下の3種類です。

  • 理学療法(PT)
  • 作業療法(OT)
  • 言語聴覚療法(ST)

「理学療法(PT)」は、運動療法を主体とした治療です。歩行や走行、立ち座り、寝返りといった動作をスムーズに行えるよう練習します。単に身体を動かすのではなく、筋肉や関節の動きを滑らかにし、上手に身体を動かす術を身につけていくのが理学療法の狙いです。

「作業療法(OT)」は、生活に欠かせない細かな動作の発育を目指します。OTの役割は、食事やトイレ動作、筆記具の使用など就学や就職に欠かせない緻密な動作の獲得です。

「言語聴覚療法(ST)」は、言葉や飲食に関わる身体機能を対象とします。さらにコミュニケーションもSTの領域です。社会生活を送るうえで不可欠な、文章作成・会話・記憶といった発達を促す訓練が実施されます。

以上が脳性麻痺の治療の概要です。脳性麻痺では障害のない部分の発育を促したり、社会資源(制度・施設)を活用して可能な限り生活の質を高めていく必要があります。
治療方針は医療的な側面だけでなく、福祉や介護といった視点も含めた取り組みが重要です。

当施設の理学療法士による「脳性麻痺」のリハビリ経験

年齢:10歳 性別:女の子
病名:脳性麻痺

自宅で生活しており、主にお母様が生活の介助をして生活していました。お母様から最近介助が大変になってきたとの相談がありリハビリを開始しました。
身長や体重が増加してくると、自分の身体をコントロールすることが難しくなったり、筋肉の緊張が高まることがあります。
そこで、左右へのバランス訓練や立ち上がり訓練などを実施して、自分の身体の動かし方を理学療法士の介助下で動かし方を認識していってもらいます。もちろん、これが関節の可動域の維持や廃用症候群の防止にもつながります。
数ヶ月継続して、週2回実施してきました。2ヶ月程経過した頃に、お母さまから立ち上がりが上手になったので、介助が楽になったとコメントをいただきました。
リハビリの中では歩く訓練も実施しました。本人は歩くことを夢見ており、実際に1人で歩くことはできませんが、介助下で歩くことで本人のモチベーションも上がり、生活の質の向上につなげることができました。