脳卒中患者の家族が抱える悩みについて

はじめに
高齢化社会が進む中、脳梗塞・脳出血などをきっかけに突然始まる在宅介護。その中心的な役割を果たすのが、家族です。しかし、介護者自身の負担や悩みは見えにくく、制度や支援の枠から漏れてしまうことも少なくありません。
介護は「する人」と「される人」の関係だけでなく、「ともに生きる」「支え合う」営みでもあります。本コラムでは、実際に多くの家族介護者が感じている代表的な悩みと、それに対する対処法・寄り添い方について総合的にご紹介します。
家族介護者が抱える主な悩み
1.終わりの見えない不安
介護は、いつ終わるとも知れない長期戦になることが多く、精神的な疲労が蓄積しやすい状況です。「この生活がいつまで続くのか分からない」という不安は、介護者に大きなストレスを与えます。
2. 介護による社会的孤立
介護を理由に仕事を減らしたり、退職したりする人も少なくありません。外出の機会が減ることで、友人や社会とのつながりも薄れ、孤独感を強めてしまうことがあります。
3. 肉体的・精神的疲労
排泄介助や移乗動作、夜間の見守りなど、身体への負担が大きい介護。また、「うまくできない」「感情的になってしまう」など、精神的な自己否定感も蓄積しやすいです。「こんなふうに思ってはいけない」と思いながらも感じる怒りや悲しみは、ごく自然な感情です。ときには強く当たってしまった後悔が残り、自分を責めてしまうこともあります。
4. 経済的な負担
介護保険制度を利用しても、訪問介護・通所サービス・福祉用具などにかかる自己負担は家計に響きます。また、介護のために離職した場合の収入減も、長期的な問題となります。
5. 周囲の理解の不足
「家族なんだからやって当然」といった風潮や、「大変だね」の一言で済まされてしまうことに対して、孤立感や怒りを感じる方もいます。介護の偏りや役割分担の不公平さも、家族間のストレス要因となります。
対処法・向き合い方
1. 相談できる相手を確保する
地域包括支援センターやケアマネジャー、家族会やピアサポートなど、専門職や同じ立場の人とつながることが重要です。一人で抱え込まず、相談することで気持ちが軽くなることがあります。「助けて」と言えることは、弱さではなく、大切な力です。
まず何から始めればいいか分からない方は、お住まいの市区町村にある地域包括支援センターに相談するのが安心です。介護の情報や制度の説明、使える支援の窓口を案内してくれます。
2. 制度・サービスの活用
訪問介護、ショートステイ、デイサービスなどの介護保険サービスを積極的に利用することで、介護の一部を“外に委ねる”ことができます。遠慮せず、制度は「使ってよいもの」と捉えましょう。家族の負担を減らすことは、介護の質を保つうえでも重要です。
3.自分の時間を確保する
介護の合間に少しでも自分の時間を持つことが、心の安定に大きく寄与します。たとえ10分でも、自分の好きなことに使う時間が“心の呼吸”になります。「コンビニで好きな飲み物を買う」「5分だけ外に出て深呼吸する」「テレビを10分だけぼーっと見る」など、小さなことでかまいません。「自分を大切にすること」は、決してわがままではありません。今すぐにそう思えなくても、「少しずつ自分をいたわることを許す」気持ちから始めてみてください。
4. 自分の気持ちに正直になる
「つらい」「疲れた」「もう嫌だ」といった感情を持つのは自然なことです。そうした気持ちを否定せずに受け入れ、言葉にすることが、感情を整理し、セルフケアにつながります。「こんな気持ちを持つ自分はダメだ」と思う必要はありません。それは“当たり前の反応”です。
また、介護される側も感謝の気持ちを持っていても、それを言葉にできない葛藤があることも知っておいてほしいと思います。「ありがとう」と言えない日があっても、心の中には伝えきれない想いがあるのです。メモに書いて渡す、目を見てうなずく——それだけでも、気持ちは通じ合うことがあります。ただ、時にはすれ違ってしまうこともあるでしょう。うまく伝わらなかったときも、「それでも一緒にいようとする気持ち」が、お互いを支える原動力になります。
もし可能であれば、「これなら自分にもできる」と思えることを一緒に見つけていく姿勢が、お互いにとって大切な時間になるはずです。介護は機能面のケアにとどまらず、「その人らしい生活」を支える関係づくりでもあります。
介護される側からも一言伝えるならば——たとえ言葉で感謝を伝えるのが難しい日があっても、見守ってくれること、待ってくれることが、どれほど励みになっているか分かりません。責めずにいてくれてありがとう。そんな思いを、胸にしまっていることもあるのです。
5. 周囲の人は介護者をねぎらう姿勢を
介護者が「支える側」として扱われがちですが、その人自身も“支えが必要な存在”です。家族や友人、医療福祉職が介護者に「頑張っているね」「無理しすぎないで」と声をかけるだけでも、大きな支えになります。
また、家族の中で負担が偏っているときには役割の分担を見直すことも重要です。
おわりに
介護は要介護者の人生だけでなく、介護を担う人の人生にも大きな影響を及ぼします。そして、その介護が持続可能なものであるためには、“介護者自身が安心して過ごせること”が必要です。
介護は、決して一方通行ではありません。「介護される側にも役割がある」「ともに生活をつくっていく」ことを大切にできれば、お互いの心が少しずつ軽くなります。たとえば、介護される側が「今日の薬を覚えておく」「自分で挨拶する」といった役割を持つことで、お互いの関係が前向きになることもあります。
介護の時間は、時に苦しく、孤独で、出口が見えないこともあるかもしれません。それでも、支え合いながら少しずつ関係が変わっていき、思いやりが深まり、やがて「穏やかな日々」が見えてくることもあります。介護は関係を消耗させるものではなく、ゆっくりと形を変えながら“ともに生きる力”を育むものでもあるのです。
あなたは、もう十分に頑張っています。どうか、ご自身のことも、大切にしてください。
そしてもし可能であれば、今の自分の気持ちを少し振り返ってみたり、誰かと話してみたりする時間を持っていただけたらと思います。その小さな一歩が、明日を少し優しくするかもしれません。
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この記事を書いた人
令和2年に理学療法士国家資格を習得。同年から令和6年12月まで群馬県玉村町にある医療法人樹心会角田病院、介護老人保健施設たまむらで勤務し、回復期リハビリテーション病棟、老健通所リハビリを経験しながら、主に脳梗塞、脳出血・脊髄損傷・骨折・神経難病の患者様のリハビリに携わる。その間に神経領域の学術大会・研修会に参加し、神経疾患に対するリハビリを中心に学ぶ。令和7年1月からリハビリスタジオ群馬に勤務。