COLUMNコラム

ボツリヌス療法とは!?-痙縮に対する治療法-

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今回は脳卒中後の痙縮に対するリハビリ方法であるボツリヌス療法について解説したいと思います!

「腕や足の突っ張り感、硬い感じが増えてきた・・・」
「痙縮の改善方法について説明を受けていない・・・」

といったお悩みがある方はぜひご覧ください!

●ボツリヌス療法とは
ボツリヌス療法は、臨床用ボツリヌス菌毒素製剤を用いた治療法で、神経筋接合部におけるアセチルコリン放出を抑制することによって、痙縮を軽減させる効果がある。
痙縮とは、脳梗塞、脳出血、脊髄損傷などの疾患によって生じる、腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴とする運動障害です。これは、伸張反射の亢進の結果生じる上位運動ニューロン症候群の一徴候と定義されます。

小難しい専門用語が多いのですね。
一般の方向けに要約させていただきます!

ボツリヌス療法は、筋肉を緊張させている神経の働きをおさえるボツリヌス菌毒素を含んだ薬(ボトックス®など)を筋肉内に注射します。
痙縮とは、筋肉が緊張しすぎて、上肢・下肢・指先が動かしにくかったり勝手に力が入る、動いてしまう状態のことです。
手指が握ったままで開きにくい、肘や手首が曲がる、足先が握ってしまう、曲がってしまうなどの症状が見られます。

痙縮により生活上で困ることが多くあります。
具体的には、
肩や肘が固まってしまい着替えや入浴が大変。手首、手指が曲がったまま伸びず、物がつかめない。
足先が突っ張るため、踵が地面に着かない。歩くときのバランスが悪い。足の指が曲がったまま伸びず、体重がかかって痛い。
こういった場合にはボツリヌス療法が役立つかもしれません。

●ボツリヌス療法の適応
適応は脳梗塞、脳出血、脊髄損傷などで生じる上肢痙縮、下肢痙縮、2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足など。

●ボツリヌス療法の禁忌
痙縮に対して効果を示しますが、その反面禁忌事項もあります。
適応にならない方
・重症筋無力症、Eaton-Lambert症候群、筋萎縮性側索硬化症などの全身性の神経筋接合部の障害を引き起こす疾患
・痙性斜頸によって高度の呼吸機能障害が有する方
・妊娠中、または妊娠している可能性のある方および授乳中の方
・ボツリヌス毒素製剤の成分に対して過敏症の既往がある方
相対的な禁忌事項
・心因性の運動異常症や高度の精神症状を合併している方
・信頼関係が患者・家族と構築できない症例
・出血傾向を呈している状態
・投与部位に感染症や炎症を呈している場合
初回投与量を減量するなど考慮が必要な方
・他の筋弛緩作用を有する薬剤を使用している方
・高齢者
・小児

●副作用
注射部位に軽度かつ一過性に生じる症状
・発赤
・腫脹
・熱感
・疼痛
全身性の症状
・発熱
・感冒症状
・倦怠感
・アナフィラキシー
過剰投与により生じる症状
・注射部位周辺の過度の麻痺
長期に渡ってボツリヌス菌毒素を反復投与する場合
・抗毒素抗体による効果の減弱・消失する可能性があります
・そのため、投与間隔を3か月以上とした方が効果の減少を防止できる

●ボツリヌス療法の実際
ボツリヌス療法を行うにあたっては、歩行や生活動作の改善、介護負担の軽減、変形や関節可動域の改善、疼痛の軽減など、明確な目的・目標を設定することが重要になります。
それを達成するために適切な投与部位・投与量を決定します。

投与部位について
投与部位は痙縮を呈する筋に投与することが基本になります。
例えば、肘関節の屈曲変形や肘が伸びない状態であれば、上腕二頭筋・腕橈骨筋などが投与部位になります。尖足であれば、腓腹筋。ヒラメ筋などが投与部位となります。
標的筋の特定には、医師、リハビリスタッフが協働して行うことが多いです。

投与量について
投与部位が決まった後は投与量を設定します。
投与量は筋の大きさ、痙縮の状態・程度によって調節します。
ただし、1回あたりの総投与量が決まっており、参考資料によると上肢240単位、下肢300単位が上限となっています。
このことから、設定した目的・目標をターゲットにして投与部位と投与量を決めていく流れになります。
また、筋肉内に注射を行う関係上、筋肉の位置を特定するために筋電図や超音波を使用する。これによって確実性・安全性を高めて投与が可能になります。

ボツリヌス療法の効果は、数日後から出現し、約2週間で安定する。効果持続は約3か月(資料によってバラつきあり)とされ、その後効果は減弱します。
効果持続中にリハビリを並行して行うことで、更なる効果の持続が期待できます。

ボツリヌス療法は痙縮に対して効果的ではありますが、一方で治療効果が低い場合があります。
最初から効果が少ない場合、最初は有効であったが後に効果が失われる場合があります。

最初から効果が少ない場合
原因として投与量の不足、投与部位の誤り、ボツリヌス菌毒素の感受性が低い、抗毒素抗体の存在
これらの可能性があります。
他にも、ボツリヌス療法を施行後に標的筋の緊張が低下したが、そのあとに治療を行った筋の協働筋(標的筋と同じ作用をする別の筋)の緊張が新たに高まり、見かけ上は効果が感じにくいといった現象もあります。
この場合には、協働筋に対して新たにボツリヌス療法を施行することで対応するケースもあります。

最初は有効であったが後に効果が失われる場合
原因として投与間隔が短い可能性があります。投与間隔は3か月以上がよいとされています。

以上のことから、ボツリヌス療法の効果を最適化するためには、
投与間隔を適切に開けつつ、反復した投与によって投与量・投与部位(感受性、抗体の存在を考慮して)を調節していくことが重要であると考えます。

今回は、ボツリヌス療法について解説させていただきました!
意外と知らない方が多く、よくご質問いただくことがありましたのでコラムにさせていただきました。

やや小難しい内容でしたがご覧いただきありがとうございます!
最近では、ボツリヌス療法や痙縮について一般の方向けに情報が出ていますので、共有させていただきます。
一般の方向け情報

ボツリヌス療法の効果が持続している間に、リハビリを頑張ることがとても大事なので
そのあたりについても、いままでの経験をもとに相談、提案させていだだきます。
お悩みのことがあれば、お気軽にお声掛けください!!

参考文献
梶龍兒(総監),木村彰男(編):痙縮のボツリヌス治療-脳卒中リハビリテーションを中心に-.診断と治療社,2010

宮本 遼一

この記事を書いた人

宮本 遼一

作業療法士

平成22年に作業療法士国家資格を取得。同年から令和4年3月まで群馬県玉村町にある医療法人樹心会角田病院で勤務し、急性期一般病棟、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、障害者一般病棟、外来リハビリ、訪問リハビリ、介護老人保健施設などを経験。平成27年に促通反復療法(川平法)の研修を修了し、その後は主に慢性期(発症から経過の長い)脳梗塞の患者様のリハビリに携わる。令和4年4月からリハビリスタジオ群馬に勤務。